【金城剛士】あえてコトバにするなら【B-project】
第11章 絶頂エモーション.5
「澄空さん。おはようございます。」
「透さん、おはようございます。あの、顔色悪いですよ。少し休みましょう。」
「そうかな、ありがとう。そうさせてもらうよ。」
僕は澄空さんに支えられながら、休憩室で少し横になった。軽く目眩がする。貧血だろうか。
「あの、夜叉丸さんから聞きました。この度は、ご愁傷さまです。」
澄空さんが、頭を下げた。僕は、愛想笑いしか出来ない。
「透さん、無理しないでください。小さなことでも相談してください。きっと力になってみせます。」
澄空さん、同情しているんだろう。目を潤ませて、僕の手を握ってくれた。
「ありがとう。澄空さん。」
僕は、嫌いになったはずの、父が死んだという現実を、まだ消化しきれてなくて、ずっと胸の奥が黒くもやもやしていた。
このもやもや、すごく嫌だ。
本人に会って、最後にケジメをつけに行こう。
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淡々と仕事をこなし、直ぐに葬式の日になった。
午前中は会議が入っていたが、午後からだったのでリスケせずに済んだ。
なんか気が向いて、会場へ向かうタクシーの中で、剛士にLIMEした。
<おやじの葬式に行ってくる>
剛士からは、すぐ電話がかかってきた。
「送る」
「へ?ごめん、いまタクシーなんだ。」
「そーか。なら、迎えいく。どこだ。」
「じゃあ、地図送る。」
「わかった。無理すんなよ。」
ブチッと切れた。
剛士の声を聞いて、少し安心した。
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会場に入り、僕は受付にいた母に、お香典を渡した。
「あなた…漣…?」
「そうだよ。」
幽霊を見るような目で僕を見る母を横目に、すぐ父の棺の元へ行った。
死んだ父は、眉間にシワが着いていて、唇は固く結ばれて、記憶のままの表情をしていた。少し老けたか。それくらい。
父の顔を見て、僕は憎たらしい気持ちでいっぱいになった。
そして、憎たらしい気持ちに心臓をぎゅっと鷲掴みされたあと、しゅるしゅると心臓から空気が抜けて、空っぽになった心臓に、悲しい涙がいっぱいになった感じがした。
どうして、僕を殴ったの。
どうして、僕を男にしたの。
どうして、僕を認めてくれなかったの。
どうして、僕を愛してくれなかったの…
気づけば、涙で視界がぼやけていた。