【金城剛士】あえてコトバにするなら【B-project】
第11章 絶頂エモーション.5
久しぶりの夜叉丸さんは、いつもの様に明るく、優しい態度で僕を迎えてくれた。
「ごめんね。漣ちゃん。最近、本当に忙しくて。あっちこっち飛び回って、家にも帰って来れないくらい。」
「うん、居なかった…」
「残念だけど、今回が特別で、今夜からまた地方へ出張に行くのよ。」
「そうなんだ…忙しいのに、ありがとう。」
「いいのよ。」
車の中で、前を見ながら会話する。
夜叉丸さんは、赤信号の時、僕の方を見て告げた。
「お父上のこと、残念だったわね。」
「はい…でもあんまり、どういう気持ちなのか、僕も分からない。」
「そう。」
信号が青になり、夜叉丸さんはアクセルを踏んだ。
「ま、わたしは、せいせいしてるわ。死んだって、許す気ないんだから。」
僕は、ふはっと吹き出して笑った。
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夜叉丸さんは出張の荷造りに帰ってきたみたいだった。
僕はとりあえずベッドに腰掛けていると、夜叉丸さんが荷造りをしながら声をかけてきた。
「あなた、あした昼の生放送ね?どう?出られそう?…もし、無理そうなら他のメンバーに代わってもらうから。どうするか決めなさい。」
「僕、やれるよ。」
「わかったわ。チャンスはこれきりよ。きっちりこなして来なさい。」
「はい。」
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夕食をとる暇もなく、夜叉丸さんは、僕の葬式用の衣装を出してきた。喪服だ。
「あなたのサイズを見繕って、レディースのパンツスタイルを買っておいたわ。もし、お別れに行くのなら、これを着ていきなさい。」
「何から何まで、ありがとう…」
「あと、ちゃんと、タクシーを使うのよ。騒ぎになると困るからね。」
「はい。」
そんなこんなで、バタバタと夜叉丸さんは出かけて行った。
僕のために買ってくれた、コンビニ弁当やサンドイッチが机に置いたまま。
「夜叉丸さん、ご飯食べてるのかな…」
僕は眠れなくて、キタコレが出演しているバラエティの収録をぼーっと見ていた。
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いつの間にか朝になって、体は自動的に身支度をし、挨拶も、会議も、放送も何事もなく終わった。終わるとスタジオに澄空さんがいて、ほっとした。