第10章 人生も人間もバグだらけ
倒しても、潰しても、
次から次へと蛆虫の如く湧いて出る敵。
いつの間にか高杉らと離れ、一人通路を走る皐月。
その間も何度か持たされていた通信機が音を出していたが、彼女はそれすら耳に入らなかった。ただひたすら眼前の敵を踏み潰し続けた。
それ故に彼女は知らなかった。
春雨が援軍として到着したことも。その彼らが侵入した場所ごと排除された事も。
……爆発に巻き込まれた万斉が、どうなったかも。
高杉は皐月にしつこくヒノカグツチ発射時間が早まった事を伝えようと連絡していたが、一向に出る気配のない相手。彼は頭に浮かぶ最悪の事態を振り払う様に走り続けた。
「………みえた。」
皐月が通路を曲がった正面。今までの比ではない数の敵が武器を持って待機していた。その背後は間違いなく獲物のある場所へ繋がっている扉だ。
「一斉に発射!」
一人の天人の掛け声により、彼女に向けられていた銃口から発砲が開始される。だが、それを容易く傘一本のみで防ぎ、尋常ではない勢いで距離を詰めてくる相手に危機を感じたか、彼らは彼女を吹き飛ばそうと手榴弾をなげた。
「さすがにこの爆発は避けきれぬ。」
そう安心できたのも束の間。
爆煙の中から鋭く何かが飛び出し、天人の眉間に刺さる。
「……夜兎の持つ傘は特殊なんだ。張り替えにどれだけ苦労するか知らないだろう。」
どこからか声がしたかと思えば、その主を確かめる暇もなく殺されていく彼ら。
「し、信じられない。たった一人の女に……。」
誰ともなく呟くその声に皐月は反応した。
「女だからなんだ。戦場に必要なのは性別ではなく、強さだろう。」
天人に刺さりっぱなしの傘を引き抜いた彼女を止められるものは何も無かった。鬼兵隊の主力である三人が纏り、犠牲を出しながらも突破したそこを、彼女は番傘一本の犠牲のみで通ってみせたのだった。