第10章 人生も人間もバグだらけ
「好いてる野郎からにでも貰ったか?」
高杉の目が少しだけ細められた。
完全に振り向き直した皐月は、何も言わず着ていた服の胸元を止めていたものを外して首元を緩める。その様子を見つめながら、彼は前にかかっている彼女の髪を後ろへのけてやった。
そこから現れた、首に下げられた紐で結ばれている結晶石。
皐月はそっと持ち上げて見せ、静かに口を開いた。
「…これは、君たちの先生の一片だ。」
この一言には、さすがの高杉も驚いた様だった。
彼女は高杉に全て話した。
春雨に潜伏していた間、何を知ったか。攘夷戦争の折、銀時に何をしたのか。彼らの師の死体に、何をしたのか。
「晋助、君が望むなら、これは君が持っていてくれ。」
そう言って皐月は首からそれを外そうとする。
だが、高杉は制した。
「いや…、これは皐月が持っていればいい。」
少し、震えているのだろうか。
高杉は結晶石に、そっと何度かなぞる様持ち上げて触った。
「……先生。」
ゆっくり目を閉じて、手に取ったそれを口元に当てる。
何故か見ていてはいけない気がして、皐月もまた目を閉じた。
暫くして目を開けてみれば、既に高杉は目を開きこちらを見ていた。
「悪趣味だな。」
「いい女の顔は見て飽きねぇな。」
いつもの様に不適に笑った顔が、そのまま近づいてくる。
何の抵抗もせず、目も伏せずにいると、高杉は彼女の頬にキスを落とした。
「時間だ、行くぞ。」
先程までの雰囲気は何処へ、彼は暗い廊下の先へ真っ直ぐ歩いて行った。
「…晋助は、絶対に生かして地球へ連れて帰る。絶対に天鳥船も止めてみせる。これは絶対だ。」
まだ見えぬその星にいる彼に、皐月は誓った。