第10章 人生も人間もバグだらけ
「傷は、もういいのか。」
烙陽を出た鬼兵隊の宇宙船内。
高杉が病室にいない皐月を探してみれば、人気の全くない通路の窓に張り付く様にして暗闇を見つめていた。
「それは君の方だろう?このくらいの怪我、夜兎にとっては擦り傷も同じだ。」
「そーかい。」
高杉は彼女が自分と来ることに確信があった。
皐月は、まだ銀時の元へは戻れない。
「…朧様から聞いているのだろ?戦争の話だ。」
「あぁ。あの国を踏み潰すのは、この俺だ。他の奴にくれてやるつもりはねぇな。」
皐月の窓についた片手に少し力がはいった。
この先どうなるかは、奈落を離れた彼女にもう分からない。
烙陽では、彼女の予想は外れて海坊主と対峙した虚は、回復のため、戦争のために地球へ向かっているはずだ。
彼のせいで生まれたアルタナ解放軍も、天導衆と戦わんとばかりに皆地球へ集まっている。一見すれば地球を守る戦争の様に見えるが、そんな単純な話ではないのだ。
「地球には戻らないつもりか?晋助。」
虚をここで倒さなければ、地球は確実に消える。そして、それを倒すには松陽の弟子達が必要なのだ。にも関わらず、今地球でおこる無意味な争いのせいで、銀時以外は皆宇宙にいる。
「…天鳥船に、虚の血を持った奴らが乗ってやがる。」
高杉の口から出た言葉に、皐月は驚きを隠せなかった。
「ど、どういう事だ?天導衆は、虚が、」
「肉片を拾われたのさ。解放軍は天導衆ではなく、他の奴が引き金だと知った上で戦争にのってやがんだ。」
「そんな、そうなれば小太郎たちは!」
「そうだ。だから、行かなきゃならねぇ。…言っただろ、あの国ぶっ壊すのはこの俺だ。」
そう言った高杉の目は、真っ直ぐ敵に向けられている。
皐月は目を開いたまま俯き、付いていた手を握りしめた。
これは思ったより深刻な問題になった。
そんなこと言われたら、戦う大義が何もなくともただ気分で地球に攻撃を仕掛けている様なものだ。桂や坂本は何のために…。