第7章 キャッホーな奴には少し早い待ち合わせ時間を教えておけ
自身の右肩の裏に入った八咫烏を見せれば、すぐそこの門は開いた。
全力では無いにしろ、神威の一発をあんな綺麗に顔面へもらったのだからタダでは済まないだろう。そうは思ったが、思った以上に人間の身体は弱いらしい。全身、頭の先から足の先まで包帯の喜喜を皐月は哀れに思った。
「喜喜公様、喜喜公様。」
彼の横たわる傍に膝をつけ、傷に響かないよう、そっと肩に手を添えて声をかける彼女。周りにいた家臣達はその光景に思わず息をついた。
「な、何者だ……。」
か細いかすれ声を出しながら、薄めを開けて見下ろしている女を見る。
「なんと、おいたわしい。わたくし、ずっと見ておりました。」
まるで天女が降りてきたのかと思うほどの美しさ。
眩しく光る白髪に、痛む腕を動かそうとしたが、それは折れていたせいで敵わなかった。
「貴方様をこの様に愚弄したあの者達、一体何者だというのでしょう。」
意識が戻ったばかりでまともに口が聞けない彼に、それを承知で彼女は囁き続けた。
「喜喜公様に、目をかけていただいているというのに。わたくしはやるせないのです。わたくしの手を取って頂けました暁には、天の使いである使命を全ういたしましょう。江戸の夜明けに、」
あのような者達は必要がないでしょうに。
「霞。」
喜喜の部屋をでた彼女は、廊下に控えていた朧に声をかけられた。
「後は天導衆に任せれば良い。このまま予定通り、伊賀で合流だ。」
「仰せのままに。」
朧の前を通り過ぎながら、皐月は世の夜明けに目を瞑った。