第6章 男のタマは時に刀でも切れない
あの八咫烏に、見つからない方があり得なかった。
あの八咫烏が、知らないなんて方があり得なかった。
「……白夜叉を捕らえよ。」
彼女は焦った。
朧は直接彼を殺すつもりなのか。
もういっそ松陽はいい。銀時が死ぬのだけはだめだ。
彼女は戦場を駆けた。
あの烏よりも先に銀時を見つけなければならない。
ふと、視界の端に見えた、血に濡れた銀髪。
皐月は弾丸よりも速くそちらへ飛んでいった。
まさかこんなところで顔を合わせると思っていなかったのだろう。
銀時は目をまんまるに見開いていた。
刀で受け身をとったが、かなりの距離をとばされる。
皐月は、後ろへ倒れこみながらも、番傘を受け止めている銀時の眼前で怒鳴った。
「来るなと言っただろ!はやく帰れ、今ならまだ間に合う!」
「は?!てめぇこの期に及んでまだそんなっ、」
「いいから早く引けと言っているんだ!!」
彼女の食い気味の様子に銀時は戸惑いを隠せなかった。
こんな必死な顔は、昔も見たことがない。
「ーーー霞。」
皐月の背後から、声がした。
それに目の前の彼女の顔から、みるみるうちに血の気がひいていく。
「時間切れだ。白夜叉をこちらへ連れてこい。」
「…朧様。殺すおつもりですか。」
「それは、そいつ次第だ。」
その日、皐月は魂が折れる、という本当の意味を知った。
侍には確かに、刀では斬れない魂があった。