第6章 男のタマは時に刀でも切れない
それは奈落へ、虚へ彼女が見せた精一杯の抵抗。
首のない死体を火に放り込む瞬間。
彼女は、その死体の心臓目掛けて傘の石突を突き刺した。
だが、それは確かに一ミリも違わず心臓を狙ったものだったが、周りの者に止めに入られたせいで軌道が辛うじてずれた。
その場で殺されてもおかしくない所業だった。
しかし白夜叉を捕らえた業績に並べ、なぜか朧は皐月を見逃した。
そうしているうちに、蘇った。
朧が待っていたであろう人は戻ってこなかった。
吉田松陽は戻ってこなかった。
業火が消え灰だけが残ったそこから、皐月は膝をついたまま動けなかった。
一体、今まで何をしていたのか。
一体、今まで何を守っていたのか。
ただ破って、壊した。
ただ折って、壊した。
これほど、血を恨んだことはなかった。
その時、目の前の灰とクズの山に、昇り始めた日の光を反射した何かが見えた。
絶望の色をベタ塗りした顔を上げ、肌が焼けていく感覚も無視して、皐月は手を伸ばす。
「こ、これは………。」
掌に収まったものは、アルタナの破片。
あの時、心臓を掠った時に飛んだ吉田松陽の一片だった。
一見すると唯の石ころ。
それでも、皐月をもう一度立ち上がらせるには充分であった。
首にかけたものを服の上から握る。
昇り始めた日を遮る様に傘をさす。
瓦をカツカツと音を鳴らしながら歩く。
「今後の事について話があると言われ、わざわざ星崩しの任務蹴ってまで参りましたのに。何をされているのですか?朧様。」
「ーーー経絡をずらした為に動かなんだ。済まないが起こしてくれるか。」
瓦に刺さった木刀で串刺しになった朧を、何も気にせずそこから抜きあげる。
「船が来てますので、話はそこで。」
「あぁ、定々の件で天導衆に話もある。時間が惜しい。」
少し小さめの船が、屋根の横に静かにつけられた。
「皐月様!朧様!」
「この声は、玄か。」
「ハル、朧様を先に。」
「了解しました。」
そうして乗り込んだ彼女らを連れて、船はまた静かに飛び立った。