第6章 男のタマは時に刀でも切れない
はっと意識を取り戻した時、目の前に刃の切っ先があった。
「っ、」
身体を捻り、片足で銀時の刀を握っている手首をねらって回し蹴りを入れる。だが、それを待っていたようにその足へ容赦ない肘の攻撃。脚を避けられ体制を崩したところへ、太腿めがけて刀が振り下される。
息もつけない攻撃に皐月は、彼が敵味方から恐れられ、白夜叉と呼ばれている理由を知った。
腹の奥からふつふつと何かが湧いて上がるのを感じる。
下ろされた刃をかわした後、体勢を持ち直して低姿勢のまま、番傘を構えて銀時の懐へ目掛け飛び込んでいく。それを薙ぎ払うように、銀時が刀を大きく横へ振るった。
だが、その刃は空を切っただけだった。
斬られる直前、目にも留まらぬ速さで銀時の後ろへ飛び上がっていた皐月は、まるで蝶の様に彼が振り切った刀の上へ降り立つ。
彼女は銀時の利き腕を潰すつもりだった。
もう刀を握れなくして仕舞えば良い。
もう、戦えなくしてしまえば良い。
蝶でいたのは一瞬。
刀に触れた瞬間、力、体重をかけた。
凄まじい音と共に刀が強制的に振り下ろされる。
あの体勢では、しばらく肩は上がらないだろう。
そう思いながら顔を上げる。
すると目の前には銀時の顔。
彼は腕を持っていかれる前に、身体をこちらへ翻していた。
「……しつこい男はモテないぞ?銀時。」
「……ツンデレはもう流行り過ぎたぜ?皐月。」
最後の攻撃の爆音のせいで、屋敷が騒ぎ始める。
ここでこれ以上すれば、皐月がこの後動きにくくなるのは目に見えていた。
彼女が大人しく銀時の刀から脚を退ける。
「おい!」
「何故、自ら屍になりに戦場へ行く。」
去っていくのを止めようと手を伸ばす銀時に、屋根の淵へ歩いていきながら皐月は聞いた。
彼は真っ直ぐに彼女の背中を見つめる。
「……ここで引いても、俺ぁ死ぬんだ。魂折っちまったら、侍は命とられなくとも死ぬんだ。」
それに、と続ける彼を皐月は振り返った。
「あいつと、約束しちまった。」
「………そうか。」
彼女はその返答を聞き、酷く顔を歪めた。
しかし、それはもう既に戦場を見据え前を向いていた為に、銀時には見えなかっただろう。
皐月は振り返ること無く、その場を後にした。