第6章 男のタマは時に刀でも切れない
「ーーーっ!くそっ!」
銀時は掴まれた手を振り払い、勢いよく数歩距離をとる。そして腰に下げているものへ手をかけた。
だが、その目は戸惑い、躊躇い、色んなモノでせめぎあっている。
「この僕に、君が勝てるとでも?」
「……こりゃあ、人の匂いじゃあねぇな。」
「随分時代遅れだな。この天人のご時世、夜兎も知らないのか。」
皐月は、ゆっくりと番傘を構えた。
その目には一片の迷いもない。
「戦場は、夜兎の生きる場所。人間は、大人しくお家へ帰れ。」
大きく踏み出し、傘の先を首に目掛けて突き刺す。
それを銀時はギリギリで刀を抜いて防いだ。
ガチガチと刃が軋む音。
両腕全力で防いでる銀時に対して、皐月は片手で易々と一撃。なんなら、という勢いで力が強まる。
その力に耐えられなくなった銀時は更に後ろへ逃げた。
「これで分からないほど、さすがにバカではないだろう。……この戦から手を引け。これ以上失いたくなければ、諦めろ。」
傘を下ろし、息ひとつ切らしていない彼女に、銀時は呼吸を整えながら口角を上げた。
「諦めて、おうちに帰んのはてめぇだ、ぼけ。」
こんなところで、引けなかった。
今度こそ、救ってやらなきゃならない。
やっと、底知れぬ闇の一片を掴んだんだ。ここで手を離したら、また闇の中へ落ちていってしまう。
「俺がここで、お前を帰してやる。」
銀時の瞳が定まった。
それをみた皐月は、理解する。
どうやっても目の前の男は止まらない様だ。
彼女はいつだって、この男に関してはうまくいかない。
松陽の下に集まった銀時たちの居場所を守ったつもりでいた。
だが結局、それは朧へ繋げてしまっていただけ。
今回もそうだ。
吉田松陽をどうにかして銀時へ返してあげたかった。
その過程で知ってはいけない事を知ってしまった。これに、彼を巻き込むわけにはいかない。最後に死ぬのは自分だけで良い。
そう思って、ここへ来た。
…この戦は諦めてくれ。
僕が必ず、どうにかして君に返してみせる。
頼むから、戦場へ屍になりに行かないでくれ。