第5章 女は黙って笑顔に花
戦場しか知らなかった皐月は、何故自分が戦場に生きているのか、などとは考えた事もない。
死と血の匂いにまみれながら、一人暗い道を歩いていく。
それが夜兎であり、いままでの皐月だった。
だが、銀時たちに出会い、気づいてしまう。
はじめは小さな疑問だった。
自分と同じく死と血の匂いが染み付いた体で生きているにも関わらず、なぜ傘もなく日の下を歩けるのか。
そして、その疑問は解決されぬまま違う形へと変形した。
同じ者に拾われて、暗闇を進む自分と、日の下をあるく銀時。
きつい仕置きをうけながらも、あの人を大切に思い、思われている銀時。
ふざけ合い、時には喧嘩をしようとも、晋助と小太郎を大切にし、されている銀時。
そんな暖かい場所に惹かれてしまったのが、今まで隠れて見ていた所から、拝殿に出てきてしまった原因だった。
自分も、もし生きる戦場、いや場所を選べるのならここが良い。
もし自分もできるなら、大切に思い、思われる人が欲しい。
影とは、明るい場所があるからできるものだと気づいてしまった。
日の下で生きていけない夜兎である自分には無理な話だった。
けれど、銀時なら……。
自分と似ている銀時には、そんな暖かい場所にずっといて欲しい。自分がそこで生きることができなくとも、銀時がいれば自分もきっと報われる。
そうして、今まで乗り気ではなかったあの人の周りの掃除を、積極的にするようになった。
奈落自体の目を晒す事に専念していた朧に変わり、あの人の周りの目を晒していた皐月。朧に言われるがまま始まった任務だった。だが、いつの間にか、そこは居場所になっていた。
銀時が、あの人といるのは刀を寄越したからだ、と言ったときは驚いたものだ。あの人の下で、自分が生きる為にだけ戦っている自分とは違う。あの人の隣で、他を守る力を受け取ったのだ。そんな選択肢は知らなかった。
もうここにいてはいけない、と思った。
これ以上いてしまったら、自分を構成してきた何かが崩れそうだった。
もう会わない、もう関わらない。
だからせめて、これから生きていく場所、いや戦場は、そんな銀時を守ってあげられるところがいいと思った。
あの夜、銀時と会ってしまうのは予定外だった。
そのせいで、皐月のした決心は完全にぽっきりと根本から折れてしまったのだ。