第5章 女は黙って笑顔に花
人混みから外れて細い道を抜けてすぐに川がある。
少し傾斜になっている、良いあんばいの所に銀時は寝っ転がった。その隣に、皐月は静かに腰を下ろす。
「銀時。」
ふと、彼女に名呼ばれ顔を向ける。
まだ花火も上がっていない空を見つめる横顔は、いつもの冷たい表情とは違っているように見えた。
遠くから聞こえてくる賑やかな音。
二人だけが切り離された空間のように感じる。
「銀時には、小太郎と晋助がいるな。」
あとあの人も、とそっと皐月は口を開いた。
「晋助がいつも話をしている学舎にもいるな。君の周りには、人がいる。」
どこかうわ言のように話す彼女に、銀時は起き上がった。
「……今は、お前もいるだろ。」
そう言いながら、皐月との間にあった距離をつめる。
「…僕には、必要のないものだと思っていたんだ。」
戦場に仲間など必要なかった。
否、居なかった、という方が正しいだろう。
物心つくまえに、人を殺す事を覚えた。
恐怖を感じる前に、畏怖されてきた。
そんな皐月の周りには、人がいたことがない。
「あの人に拾われた時も、僕は血に従っていた。この人についていけば、どこも戦場である事を、血が感じていたんだ。そこが、僕の生きていける場所だと。そこに、仲間なんて、必要なかった。」
「あの人って………お前、何なんだよ。」
空を見上げていた顔はいつのまにか俯いていた。
「あの夜、何してたかなんて詳しく聞かなかったがな、今話せ。お前、一体何してんだ。」
かなり強く皐月の両肩を銀時が掴んで、身体を自身の方へ向かせた。それでも目を合わせようとしない彼女に、銀時は痺れを切らし始める。
「言ったら、僕はここにいられなくなってしまう。」
そう言った彼女の声は、少し震えていた。