第5章 女は黙って笑顔に花
翌日
皐月は三人と例の祭りに来ていた。
夕暮れ時を過ぎて暗くなり始めた街並みに、提灯の灯りがともる。
普段見慣れているはずの場所が、まるで違うところの様に見えた。
その上、いつもの倍はいるであろう人の数。
「皐月、気になるもんあったら声かけろよ。」
前を歩く高杉と桂はずっと、あっちへ行こうこっちへ行こうと言い合いをしているが、どことなく楽しそうだ。
「ったく、あいつらはしゃぎすぎだろ。ガキかよ。俺たちのこと置いて行く勢いじゃねぇか。」
皐月の隣を歩いていた銀時は鼻をほじりながら、つまらなさそうにだらだらと歩く。
「君は、楽しくないのか?」
珍しく傘をささずに歩いている皐月が、銀時の方へ向けば、否が応でもはっきり顔が見える。前に高杉と桂ががいるといっても、二人で話す状況になったのはあの夜以来。銀時は皐月の顔を見てその事を思い出し、少し緊張した。いかんせん、勢いとはいえあんな事をしてしまったのだから。
「…前、見てねぇとぶつかんぞ。」
反対へ向かう人の波とぶつかってしまう寸前、銀時は皐月の腕を乱暴に引っ張った。
「人がすごいな。こんな中を歩くのは初めてだ。」
心なしか浮かれている様に見える彼女の視線はあちこちに向けられ、注意したのにも関わらずまたぶつかりそうになる。
「おい!お前もちょっと落ち着け。」
「すまない。初めて見るものが多くて。」
きょろきょろしている顔に、相変わらず表情はない。
だが、こんな祭りでも、普段見られない皐月を見られるのは存外楽しめるな、と銀時は思った。