第4章 恋にマニュアル本は必要ない
「君ら地球人には、乗りこなせない船だと言ったな。」
後からやってきた鬼兵隊の者とハルに嗜められて、傘を一旦引いた皐月だったが、あれから船に彼らの姿を見かけると、彼女はあからさまに顔色を変える。
「確かに言う通りだったな。」
俺たちにゃ、この船は脆すぎる。と天を仰ぐ高杉。
そんな態度の彼に、遂に皐月が降参した。
「……あのアホに、神威を生け捕りにして処刑するよう促したのは僕だ。」
手元の物を置いて話を始めた皐月に、高杉は視線を戻す。
「見せしめは必要だと耳元で囁けば、簡単にいう事を聞いた。……それに鬼兵隊を使うよう進言したのも、僕だな。」
「俺ぁ、てっきりてめぇには嫌われていると思っていたんだがな。」
「目障りなモノの掃除は一回で済ませたいだろ?」
「そりゃ、違ぇねぇ。」
くつくつと笑う高杉には、彼女が第七師団と鬼兵隊を排除しようとして嗾しかけたのではない事をわかっていた。
「手を引け、手を切れ、って割には言うことが違くねぇか?」
「君がいつまでもぐずぐずしているからだ。」
そういう皐月は完全に呆れ顔だった。
「……君が、君達が何かをしなくとも、あの幕府はもう終わっている。これ以上、関わるな。」
テーブルの一点を見つめていた皐月は、高杉と目を合わせた。
「そんな事、とっくの昔に知っているさ。ただ、目の前をちらちらされりゃ、叩いてやりたくもなるだろうよ。」
そういった彼は、口角は上がっているものの、目が獣のそれだった。
「そのためなら死んでも良い、と?」
「んな腐ったもんにかけるかよ。………俺が命かけてんのは、あの人だ。」
目に獣を宿す高杉。
だが何処か迷子のようだな、と皐月は思う。
彼女は、首から下げているものを服の上から握った。