第3章 春休み明けの女子と夏休み前の男子はセットで気をつけろ
「お、お前さ、どこ住んでんだ?」
意を決して出た言葉。
もしかしたら返ってこないかも知れないと思ったが、それは杞憂に終わった。
「少し行った所だ。駄菓子屋の二階に部屋がある。」
田んぼのその先を指さしながら応える。
別れ際、一人だけ町の方へ歩いて行く彼女を銀時は密かに気にしていた。
「あのばぁさんと一緒に住んでんのか。耳遠いんだよな。いつも間違えて酢昆布出してくんだよ。」
「すこんぶ?」
「ばばぁの食いもんっつー意味だ。」
駄菓子屋に住んでんのにそれも知らないのか、と思う。
「つーか結構距離あんじゃねぇか。何でこっち来始めたんだ?」
背けていた顔を思わず皐月の方へ向けた。
今まで思った事がない訳では無かったが、ふと疑問に思った。存在自体がミステリアスな彼女は、謎が多すぎてそんな原点を気にしていなかった。
「…………。」
その問いに、皐月はあからさまに俯いて黙り込んだ。
「なんだよ、言えねぇようなことしてんの?」
追い討ちをかけるように聞く銀時は、まるで先程と同じ者とは思えない。皐月との距離を詰めるように寄り、顔を覗き込むように傾ける。
そこで初めて彼女の無表情以外の顔をみた。
「わ、わりぃ。言いたくねぇことくらい、あるよな。」
頬を掻きながらまた少しだけ、皐月から距離をとる。
しかし、はじめより確実に二人の距離は近づいていた。
「………君は、」
俯いたままだった皐月が、少しの間を置いて口を開く。
「君はどうして、あの人と一緒にいる。」
あの人、と言うのが松陽をさしているという事を、何故か理解する事ができた。どうして突然、とも思ったが、覗いた時見た彼女の顔を思い出す。
「……なんか、理由なきゃいけねぇのか?」
その返しに、彼女は下に向けていた顔を、再び銀時の方へむけた。
「あいつが、俺に刀を寄越した。そんだけだ。」
皐月の目が、徐々に開かれていく。
今日は珍しいもん見たな、と彼は思った。