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夕顔

第3章 春休み明けの女子と夏休み前の男子はセットで気をつけろ




何度も学舎へ戻ろうと考えた。
だがその度に、いつも自分たちが馬鹿している所を静かに見ている皐月の顔がチラついて、足が神社へ向いてしまう。
何を話せばいいのか、まず会った時の一言目はどうしようか、と頭を抱えながら畔道を歩く。
彼に、それがどう言う意味を表すのか教えるものはいない。
銀時は変な音のする心臓に耐えられず、目の前に見えた神社の階段を駆け上がった。


皐月はいつも通り、拝殿の階段の一番上に傘をさして座っていた。そこへ、息を切らした銀時が現れる。

「よ、よぉ。」

あれだけシミュレーションしたにも関わらず、出た言葉はなんて事ないものだった。
銀時の声かけに顔を上げるだけの反応を返す皐月。無理やりに上げた口角が震える。だが、ここで止まってしまえば、絶対に二人のどちらかがくるまで立ち尽くす事になると思い、気合で前へ進んだ。

階段へ足をかけると、皐月が少しだけ端に詰める。
なんだこれは、隣に座れっつーことか。
一応彼女の隣に腰を下ろした銀時だったが、それはもう端に寄っていた。

一旦落ち着いたは良いものの、無言が続く。絶対に皐月から話をすることはない。抱えた刀の鞘を触りながら横目で伺ってみても、無表情で、作り物の様な構造の顔からは、今つまらないかどうかすら感じ取れない。

こりゃ仲良く、なんて無理な話じゃねぇか、と息をついた時だった。


「今日は、君一人なのか?」

その一瞬だけ、外の音が消えたのかと思うくらい、彼女の声だけが耳に届いた。
まさか話しかけられるとは思わず、ばっと顔を皐月へ向けただけで返事のタイミングを逃す。何も話さない銀時に、皐月はゆっくりと顔を動かした。正面からまっすぐ視線を向けられて、銀時はあからさまに顔を背ける。

「あ、あいつらは後で来る。用事があんだと。」

少しふるえる声でそう何とか返したが、今にも心臓を吐き出せそうな想いだった。
そんな事は知らず、皐月は静かにそうか、とだけかえす。

そうしてまた地面を眺め始めた彼女をみて、銀時は腹を括った。


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