第3章 春休み明けの女子と夏休み前の男子はセットで気をつけろ
あれからこの神社は四人の溜まり場となった。
天気が悪い日以外は毎日そこに集まり、皐月に手習いの真似事をしたり、話をしたりして過ごした。
はじめは頷くしか反応を見せなかった彼女だったが、最近では二言、三言と話すようになっていた。表情は相変わらずだが、桂は明るくなったと喜んでいる。高杉も松陽の話をして、学舎に興味を持たせようとしていた。それに比べて銀時は未だ彼女を眺めるばかりで、あまり関わろうとしていなかった。桂と高杉がいる時は皐月を交えて話をするものの、二人になることを避けている節があった。
「………なんて?」
「だから、俺も高杉も、今日は用事があるんだ。遅れて行くから先に神社で皐月と待っていてくれ。」
少し日差しが強くなってきたある日の事。
高杉は松陽と話が、桂は墓参りが、と二人ともに用事があり、別々に神社へ行こうと銀時は言われた。今までも別で神社へ行くことはあったが、自分一人先に向かって皐月と二人になる事は初めてだった。
「え、い、いや、俺も今日ばぁちゃんの墓参り行かなきゃいけなかったな、うん、そうだった。」
「貴様、先生に拾われた身であろう。」
「あ、そうそう、松陽に話が、」
「さっき先生が、今日は銀時との用事はないから、と高杉の話を受けていたぞ。」
あのクソやろう、と銀時の額に血管がうく。
銀時は焦っていた。
あの無表情女と自分が二人、同じ空間にいたらそれは地獄だ。神社にいる神様も真っ青だ。
そんな心情を読み取ったのか、桂はため息をついた。
「貴様はそんなに皐月と二人きりになりたくないのか?」
呆れ顔をされて、銀時は観念した。
「……俺はあの女の顔が苦手なんだ。」
「そんな事を言うな。美しい顔立ちだろう?」
だからそれが、と言おうとしたが無駄な事だと気づく。
「いい機会だ。皐月と良く話をしてみろ。最近はよく喋るようになってきたのだから、大丈夫だ。」
銀時の肩にぽん、と手を置くと、清々しいほどの笑みを浮かべて桂はその場を立ち去った。
「……あの野郎、覚えとけよ。」
桂の背中を睨みながら、銀時は握り締めた拳に、さらに力をこめた。