第3章 春休み明けの女子と夏休み前の男子はセットで気をつけろ
松陽に拳骨をくらったのかと思った。
そのくらい強い衝撃だった。
「今までの人生で、彼女より綺麗なものと出会えと言う方が難しいだろうな。」
透けてしまうのではないかと思うほど白いこの生き物は、本当に自分と同じ人間なのだろうか、と銀時は思った。
「彼女、読み書きができないらしい。同い年ぐらいだろうと、先生の所へ連れて行こうとも思ったのだがな、嫌がられてしまった。」
人に見られてはいけない妖精のようだ、なんて歯の浮くようなセリフも入ってこないほど惚けていた。すると、不意に彼女が膝元から目線を上げる。
彼女の視線が自分から逸れたことに気づいた高杉は、少しふてくされた顔をした。
「……あれは銀時だ。俺たちと同じ学舎の野郎でな、」
あいつに近づくと天パがうつるから近寄んなよ、とふざけて言う高杉に、銀時はやっと我に返った。
「だぁれがうつるか馬鹿野郎。お前こそ、女なんて寄ってくるだけうぜぇみたいな顔してるくせにちゃっかりしてんな。」
「うるせぇな。ぎゃーぎゃーいう奴は発情期だったか?女見ただけで興奮してんじゃねぇよ。」
「あ"?やんのかごらぁ。」
「上等だごら。」
「やめないか貴様ら。」
皐月の前だぞ、と桂が彼女の名前を出すと、立ち上がっていた高杉は渋々腰を下ろした。その様子に銀時はこいつマジか、と小声で呟く。
「すまないな。血の気の多い奴らだが悪い奴じゃないんだ。仲良くしてやってくれ。」
木の下で止まっていた桂が、皐月にフォローを入れながら二人の座る階段の数段下に腰掛けた。
「ほら、銀時もこっちへこい。おにぎりを持ってきたんだ。」
皆んなで食べよう、と言いながら、いつの間にやら手に持っていた包みを開く。
飯を食べるためだ、決してこの女に興味がある訳じゃない、と心の中で言い訳をしながら、銀時も拝殿の方へ歩みを進めたのだった。