第2章 思い出さなくても良い思い出もある
鳳仙は、銀時によって日の下へ飛ばされていた。
普段日の下を歩くことの多い夜兎でさえ、死ぬことはなくとも、傘がなければ、ヒリヒリと肌が焼け、動かなくなっていく身体と、鈍る思考に苦しむ。そんな太陽の下へ何年もの間、地下の常闇に籠もっていた旦那が一歩でも出てしまえば、全身が乾き、塵と化してしまうだろう。
廊下の手摺り役を果たすものに足をかけ、少し高さのあるそこを飛び降りれば、腕の中から小さい悲鳴が聞こえる。
その小さな悲鳴が響くほどに、その場は静かだった。
眩い光が差す外からは、いつものような三味線の音も、耳障りな声たちもない。ただ皆が雲一つない空を見上げていた。
外の様子を見ている百華の群れのうちの一人がこちらを振り返った。
「日輪様!!!」
その声につられて皆がこちらを振り返り始める。
「貴様!!何者だ!!日輪様をはなせ!!!」
少し和やかだった空気が、一瞬にして張り詰めた。
日輪の顔は見えていても皐月の顔は傘の端に阻まれ、陰っているせいで見えていないだろう。見えたところできっと皐月の事を認知する事の出来るものは、この群には一人しかいない。
「落ち着いて、みんな。この人は大丈夫だから。」
日輪の柔らか声に、構えをとっていたものが不審な顔をしながらも武器を下ろす。その様子を見届けてから、またゆっくりと皐月は歩みを進めた。
群にまで届くと、徐々に人の波が割れていく。外に投げ出された鳳仙と、その傍に立つ神威。
そして騒ぎに振り返っていた、銀時。