第2章 思い出さなくても良い思い出もある
皐月は迷っていた。
普段なら言われずとも、面倒事は殺しをもって抑えてきたが、目の前にいるのは銀時だ。
これでは攘夷戦争の時と何ら変わらないじゃないか。
今入れば止められるだろうが、銀時は納得するのだろうか。
そう考えてしまうのは、あの戦争のせい。
彼の守るものは、それで守れるのだろうか。
いや、結局悩むだけ無駄なのだ。この手で、壊せるものは数多あっても、守れるものなど今までだって一つもなかったのだ。
「………銀時。」
彼女が名を呟いた時だった。
彼の放った薙刀が鳳仙の肩に刺さる。
だがそれも気にせず傘を振るうも、銀時がそれを踏みつけ、ついに鳳仙の顔へ一発叩きこんだ。
魂をつなぎとめ、生を強く引き寄せたその攻撃に皐月はゆっくりと目を閉じ、思った。
いつだって彼はそうやって、守っていた。
移りゆく中で変わってしまった関係だが、銀時の身体を貫くそれは変わっていなかった。
あの時と同じにしてはいけない。
皐月はまたゆっくりと目を開いてハルの方へ顔を向けた。
「帰りの船の用意をしてきて欲しい。僕も事を済ましたらすぐに向かおう。」
主からまさかそんな指示が出ると思いもしないハルは目を見張った。
「皐月様いいのですか?あの侍は…」
「いいんだ。ここで僕が入って生き残ろうとも、銀時は死んだも同じなのだろうな。」
皐月の言いように、それ以上ハルは口を挟まなかった。
「地上に残した船をすぐたてるよう用意して待っております。」
どうか、お気をつけて。と静かに頭を下げると、不意に重みを感じた。さらさらと撫でられる久々の感触を味わいながら、侍とは面倒臭い生き物なのだと、ハルは完結した。