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夕顔

第12章 夕顔





廊下を真っ直ぐ進み、一度右に曲がって三枚目の襖。
忘れようもない。皐月の部屋だ。



銀時は深呼吸をしてから、襖をあげた。
いつものように、皐月は片手に煙管を握って夜空を見上げている。ただ一つだけ違う事は、その煙管に火がついている事。




「…皐月。」

銀時が名前を呼ぶと、彼女は顔だけで振り向く。
その顔は、後悔の念一色だった。きっと自分も同じ気持ちだったからこそ、伝わってきたのだろうと思う。


「銀時…。」

いつの間にか火の消えた煙管をその場に置き、皐月は部屋の入り口に立ったままの銀時の元へ走り寄った。
そして、その勢いのまま抱きつく。



「ぎんとき。…会いたかった。」

すまなかった、と謝る彼女に、銀時も謝りながら抱きしめ返す。
久しぶりの彼女の匂いに、彼は胸がいっぱいになった。やっぱりどうしようもなく好きだ、と思う。こんな自分を不器用に、こんなに想ってくれている皐月が、たまらなく好きでしょうがない。
もう、離れようだなんて思わない。


回された銀時の腕にいっそう力が入る。それが皐月は嫌でなかった。むしろ心地良いくらいだ。
思えば、銀時に一度だって自分は拒絶された事なんてなかった。それが答えであったのだ。彼はとっくに、自分と一緒にいる事を選んでくれていたのだ。
もう、離れてしまおうだなんて思わない。



「銀時。ぼくは君が好きだ。」

銀時の腕の中、少しだけ身体を離して顔を合わせながら皐月は言った。自分の手の下にある彼の心臓の動きが、早まったように感じる。


「君は…これからも僕と一緒に、いてくれるか?」

「ったりめぇだろ。もう離れんのは、ごめんだ。」


銀時はそういうと、皐月の唇に自身のを重ね合わせる。
しっとりと感触のいい彼女の唇を何度か食み、ゆっくり離したあと、鼻先の触れ合う位置で銀時は彼女への想いを呟いた。そうしてもう一度キスをする。

「皐月、ちょっとだけ口あけて?」

触れ合うだけで我慢の効かなくなった銀時が、少し首を傾げながら言えば、彼女は素直に従う。舌を彼の好きなようにさせていれば、唐突に銀時は顔を離した。そして何を言うかと思えば、と彼女は笑ってしまった。


「何か癪だから、タバコ禁止ね。」

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