第12章 夕顔
銀時と手を繋いで歩く懐かしい道。
あの頃と同じ景色だとはお世辞にも言えなかったが、それでも彼と二人、ここに来たことに意味があると彼女は思う。
皐月は、銀時にお願いをして松下村塾に来ていた。
正確に言えば、高杉に会えるところに行きたい、と言った。
そしたら、彼はあそこ以外ありえないと即答した。
正直、その敷居を跨いでいいものか、と彼女はぎりぎりまで悩んでいた。しかし、あまりの銀時のあっけらかんとした態度に押されて、昔も入ったことのないそこを通った。
ここが、入り口。
ここが、道場。
ここが、教室。
ここが、あいつの部屋。
銀時は、焼けた跡そのまま残ったものを踏みながら、皐月に話をした。楽しそうに、でもどこか寂しそうな彼の横顔を、彼女は目に焼き付けた。
そしてたどり着いた所にあったのはお墓だった。
銀時は朧の墓だと言った。
高杉の墓はない。
けど、あいつが帰る場所はここだ。師の隣、兄弟子の隣。ここ以外は、考えられなかった。
銀時が言うのだからそうなのだろう。皐月は疑いもしない。高杉はここにいるのだ。
「返すのが遅くなって済まなかったな。」
落ち着かなかったであろう彼に謝りながら、胸元から出した煙管をそっとその墓に供えた。
「ちゃんと約束は守った。生きて、君にこれを返しにきた。
……晋助。ありがとう。僕も、君と会えて良かったと心から思う。」
皐月はあの日返せなかった晋助への返事を返すと、空に向かって微笑んだ。もう心配しなくても大丈夫だ、と伝わるように。
そんな彼女を後ろから見てた銀時は、高杉と何か言葉を交わしたのか。気になりはしたが、あまりに優しい顔をされたもので、聞き逃してしまった皐月だった。