第12章 夕顔
部屋の縁側に座ったままの皐月。
ハルから貰った物を膝に乗せたまま、どのくらい経ったか。
気づけば外は暗くなっている。屋敷からハルの気配も消えていた。
膝の上には、ハルが初めて小遣いを使って買ってきたという刻み煙草と火。そして手には高杉から預かったままの煙管。
彼女は、これを預かった時に高杉から言われた言葉を思い出した。そういえば、彼は一服ぐらいなら許してくれると言っていた。
皐月は、吸ってみることにした。
刻み煙草を火皿に入れて、火をつける。彼の真似をして吸ってみるも、初めて吸うものだから、勢いよく肺に煙を入れてしまいむせ返った。けほけほと、息を吐けば何処からか笑われたような気がした。
それでもしばらく繰り返してみれば、案外上手く吸える様になる。
だが、なにが美味しいのかは分からなかった。舌の痺れる感覚がどうも好きになれそうにない。もしかしたら、まだ正しく吸えていないだけなのかも知れないが。
肺に入れすぎないように煙を吸う。
自然と目に入る火皿に彫られた花をみて、彼女は自分が死のうとした時のことを思い出した。
すべて捨てて逃げようとした自分。
そんな自分を止めに来てくれた銀時。もう一人で抱え込まなくて良いと、一緒にいてくれた。泣いてしまった時は、ずっと隣にいてくれた。
そこで皐月は思う。
自分は、銀時の抱えているものを少しでもみた事があっただろうか。支えてもらってばかり、寄り掛かってばかりの自分は、彼がどんな思いでいるか、理解しようとした事はあっただろうか。
いや、聞いた事もないのだから理解も何も無かった。
そもそも、自分は銀時への想いを少しでも口に出した事があっただろうか。いや、ちゃんと伝えた事は一度だって無い。
毎晩会っていたにも関わらず、自分達は会話らしい会話はしてこなかった。言葉通り、ただ一緒にいただけだった。
そんな事では、最初から上手くいくはずもなかったのだ。
結局、自分は相も変わらず逃げっぱなしだったのだな、と皐月は反省した。
「……銀時。」
銀時に、会いたい。
会って少しでも話がしたい。
そう思った時。
玄関の扉が荒々しく開けられる音がした。