第12章 夕顔
皐月の家へ走っている途中、銀時は反省していた。
彼女は、自分と居たい、と言ってくれていたのだ。それにも関わらず、彼女の話も聞かずに決めつけて、目を晒し続けていた。決定的な言葉を掛けられる事から逃げていた。
それ以前に、二人には圧倒的に言葉が足りていなかった。
自分は一度でも、皐月への想いを口にして伝えた事があっただろうか。彼女から一度でも、自分に対する想いを聞いた事があっただろうか。
こんなでは、上手くいくはずもなかったのだ。
銀時は皐月の家に着くと、走ってきた勢いのまま玄関を開けた。鍵の閉まっていなかったそこは抵抗なく開く。無用心だ、とも思ったが、この屋敷に住む者は警察なんかよりよっぽど怖い奴だったな、と思い直した。
そして、銀時は玄関に立てかけてある傘を手に取った。
たしかこの傘の色が黒からこの色になったのは、自分が来なくなる数日前だった様に思う。あまりに黒かった時の存在感が強かった為すぐに気がついた。
ハルに言われていた通り、傘の柄は普通よりもツルツルしていて何か施されているのは間違いない。
くるっと向きを変えて見てみれば、そこには確かに、おじさん天使の絵が書いてあるダサい正方形のシールが貼ってあった。
間違いない。
これは昔、祭りで買ったドッキリマンチョコに付いてたのを銀時が皐月にあげたものだ。
こんなくだらないシールをやったことすら、銀時は忘れていた。
でも彼女は、傘の柄を引き継ぐほど大切にしてくれていた。
こんな面倒な事をする奴が、自分を好きじゃないなんて、あるだろうか。
ここまで示してもらえないと動けない自分の臆病さに、銀時は嫌気がさした。