第12章 夕顔
「……そうですか。」
そう言いながら、ハルは立ち上がった。
この人達は、どうしてこう曲がりながらでないと進んで行けないのだろうか、と思う。互いに互いを想い合っているはずなのに、どうしてこうもすれ違ってしまうのだろう。
玄関へ続く廊下の前で、ある事を思い出したハルは足を止めた。
…これは一か八かの賭けだ。
もしかしたら、見当ちがいの話かも知れない。話をしたところで、なんだそれと言われるかもしれない。だが、この機を逃せば、もうきっと本当に二人は永遠に会わない様な気がする。
決心をしたハルは、大きく息を吸って、銀時に背を向けたまま話し始めた。
「皐月様が、最近番傘を変えたのはご存知ですか?」
「……は?」
唐突に話が始まったかと思えば、それは本当に今までのどこにも結びつかない話だった。
銀時は思わず、顔を上げた。
「もう、あの人の傘は戦闘用に使う必要はないと、俺が勝手に普通の日傘を買ってきたんです。銃口のない、人がさしているものと同じものです。」
「いや、うん。確かに黒くなくなったよね、うん。」
なんの脈絡もない話。一応相槌は打ってみたが、一向に何が言いたいのかがわからない。
しかし、銀時は次の話を聞いて目を大きく見開いた。
「折角新調したにも関わらず、皐月様はわざわざお店にもう一度持って行って傘の柄だけ昔の物と交換したんです。確かに、あの人柄になんだか変なシールを貼っているんですよね。それを剥がれない様、特殊に加工しているから、今までも面倒な張り替え作業をしてたんだとか。」
何のシールだか知っていますか?
そうハルが聞くより早く、銀時は立ち上がっていた。
「……ここまでしてもらえねぇと動けないなんざ、どっかの誰かにどやされんなぁこりゃあ。」
ありがとうな、と銀時はハルの頭にポンと手を乗せてから、走って家を飛び出して行った。
「…全く、本当に面倒な人達だ。」
皐月様をよろしくお願いします、と開きっぱなしの玄関へ向けてハルは呟いた。