第12章 夕顔
「……今日は、お願いしたい事があってきました。」
そう静かに口を開いたハルの言いたい事が、銀時には何となくわかってしまった。だが、それは彼女にノーと言われている。応えられるものではない。
「悪ぃけど、会えねぇよ。他でもないあいつが、俺と会いたがらねぇんだ。仕方ねぇだろ。」
目を合わせず、下を向きながら銀時は先回りして言う。その言葉に、ハルはそうですよね、と諦めた様に返す。
「皐月様、銀さんが来なくなってから喋らなくなっちゃいました。全然、元気無いんです。今日俺にもなにか出来ないか、と頑張ってはみました。でもやっぱり、あの人は、貴方じゃないとダメだと思うんです!」
前のめりになりながら銀時に力説するハルの目は本気だ。
だが、どうしたって、本人が会いたがらない今の状況じゃ、傷つけてしまう未来しか見えない。
「あいつが、俺と会いたいなら幾らでも会いに行くさ。」
「皐月様はきっとツンデレですよ!嫌よ嫌よもなんとかって奴ですって!」
「いやまじなの?昔そうかなって思ったことあったけど、まじなの?最近デレばっかだったから忘れてたわ。」
「好きなものほど遠ざけちゃう傾向にあるんですよ、あの人は。そう言う体質なんです。」
「美人一途幼馴染みのツンデレとかやばくね?神なの?ハイスペックなの?」
ふざけて返す銀時だったが、そうではないことくらい分かる。彼女はツンデレなんかじゃない。好きなものには真っ直ぐなタイプだ。
それが人とは違う方向に進んでしまうだけだと、よく知っている。
皐月の事を思い浮かべた銀時の顔に、優しさが滲み出る。ハルはそれを見逃さなかった。
「皐月様は、貴方の事大好きですよ。でなければあんな風に落ち込んだりしない。」
そうは言うが、と銀時は思う。
きっと、そうやって落ち込んでいるのは他でもない、あの野郎を思ってだろう。
「あいつは、昔の俺への想いを今の俺へ向ける前に、別の奴に持ってかれちまったんだ。もう俺じゃあ、その穴埋めてやれねぇんだよ。」
そんな銀時にハルは気づいた。
もしかして、二人はお互いになにか大きく勘違いをしているのではないだろうか、と。