第12章 夕顔
「……言われました通り、銀さんにはお帰りいただきました。」
「ありがとう。今日はもうお休み、また明日。」
はい、お休みなさい。とハルが背後で静かに襖をしめる。
とうとうやってしまった。
あの辛そうな銀時の顔を見なければいけない事に、耐えられなかった。
銀時がそんな顔をする様になってから、皐月は一つ、目を背けていた事を認めた。それは、銀時は無理をして自分と一緒にいてくれてるのではないか、という事。
銀時は優しい。
自分が涙すれば、絶対に置いて行ったりはしない。会いたい、と言えば毎晩嫌な顔一つせず来てくれていた。でもそれはきっと、今だけを見ていたからに過ぎなかったのだろう。
元々、彼にとって自分は散々な存在の筈だ。
大切な師を売られ、殺され、挙句相弟子を殺されて。
今まで一緒にいてくれたのが、奇跡に近いのだ。昔の出会いの頃を思えば、そんな物、なかった方がいいに決まっているだろう。
いつ嫌われてしまうか。
いつもう会いたくないと言われてしまうか。
そう考えるだけで涙が溢れた。
そんな時もそばにいてくれた銀時。
自分なんかが、縛っていい存在じゃなかった。
これで、良かったのだろうか。
高杉の煙管に問うてみても、彼がいるかもわからない夜空を眺めてみても、答えはわからない。でも、銀時が自分の存在によって苦しむくらいなら。死ぬよりも辛い、彼といれない辛さを受け入れるしかない。
そんな皐月を、いつもハルがそっと覗いていた事はきっと彼女は知らないだろう。