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夕顔

第12章 夕顔





いつものように廊下を真っ直ぐ進んで、一度右に曲がり、そこから3番目の襖を開ける。そこが皐月の部屋だった。


「皐月。」

部屋に入る前に、必ず名前を呼ぶ。
そうすると中庭を眺めながら縁側に腰掛ける彼女は、顔だけでゆっくりと振り返る。どこか安心したような顔をして。


振り返った皐月は、思っていた。
何かを耐えた様な顔をしてくる銀時が、もう会いにはきてくれないのではないかと。毎回不安になり、きてくれるたびにほっとする。
そんな自分の態度が、銀時を苦しめていることにも、薄々気付いていた。


銀時に会わせたい人がいる、と飲みに連れて行ってもらった日。
その日の何気ないお登勢の昔を振り返る言葉に、彼女は胸が詰まった。忘れたわけではない。そうではないが、それまで銀時といる時は、ずっと二人で黙って手を握っている事が多かった。だが、いつまでもそんな事ではいけない、と考えてしまう。





そう。
その日から二人の関係にどこか揺らぎができた。


皐月は大事にしまっていた高杉の煙管を握って毎晩夜空を見上げるようになった。そんな彼女の背中を、銀時はしばらく見つめた後、彼女の隣に寄り添うようにして座る。すると肩に、皐月の頭がのる。それを夜が明けるまで、そっと撫で続けた。ここ数日、彼女は涙すら見せる。


何も解決できていなかった。
二人は、止まったまま、進めていなかった。

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