第12章 夕顔
あの夜のどこか儚さのある二人を思い出してみると、新八の話もあながち思い過ごしではない様な気がした。
「奴に、いい加減腹括れっていっときなぁ。」
お登勢は聞いているのか怪しい、未だ暴れている二人に向けてそう告げた。
その日の夜。
銀時は嫌な雰囲気に見送られて万事屋を後にした。
もしや何かばばぁから聞いたか、と思ってもみたが、皐月の事を話せなかった。正直、お登勢に紹介する時までは合わせる気満々でいた。
だが、銀時はそこで気付いてしまった。
自分達がどこか昔から目を逸らしている様な節がある事に。逃げているつもりはなかったが、彼女の前で何処か引いている部分があったのかもしれない。今共にいれるこの現状だけに満足しきっていて、根本的なことは何も解決されていないのではないか。
そして、そう思ったのは銀時だけではなかった。
歌舞伎町から少しだけ離れたそこに、その屋敷はあった。
近代化が進む街並みとははなれ、日本家屋が並ぶ住宅街の中、一際大きいその屋敷。たった二人で住んでるとは思えないそこが、皐月の今の家であり、銀時が毎晩通っている場所であった。
チャイムを鳴らせば、静かな足音が聞こえてくる。
カラカラと玄関を開けるのは、毎回彼女の従者であるハルであった。
「よぉ。」
「こんばんわ。」
あの日、皐月を抱いて病院に帰ってきた日から、銀時はハルに完全に懐かれていた。銀時様なんていう呼ばれ方をされそうになったときは、慌てて銀さんでいい、と言ったものだ。男に様付けで呼ばれるのはあんまり好きじゃなかった。
お茶お待ちしましょうか、と毎度丁寧に聞いてくるハルに、今日も銀時は一つ礼を言って断る。最初はすこし食い下がり気味だった彼も、最近はすぐ下がる様になった。
しつこくするのに気が引けるのもあるのだろうが、きっとちがう。
きっと、俺がお登勢のばばぁの所に皐月を連れて行ってからの、あいつの様子のせいだろうな。と銀時は思う。