第12章 夕顔
「……え?ちょ、ちょっと待ってくださいねお登勢さん。あ、あの銀さんが?お登勢さんに?女の人を紹介した……?」
頭を抱えて考え込み始めた新八に、お登勢は肯定する。
「あ、あああの銀ちゃんが??あ、あり得ない……あり得ないアル!!そんなこと天と地が100回入れ替わるよりあり得ないアル!!」
カウンターにガンガンと凄まじ勢いで頭を打ち付ける神楽には、やめろと怒鳴った。
だが、そんな二人の気持ちも分からなくない。なんなら、あの時一番驚いて目玉が出そうになったのは誰でもない、お登勢自身だ。
あれは、珍しく客足の少ない日だった。
一人の飲んだくれを無理矢理帰したのとすれ違いに、これまた珍しく素面の銀時がのれんをくぐる。
「よぉ、ばばぁ。今日は一段としみったれてんねぇ。」
「うるさいよ。文句あんなら、たまには早く家帰って、あいつらにいいもんでも食わしてやんな。」
入り口から中々入ってこない銀時に声をかけながらも、おしぼりをカウンターに一つ用意する。いつもなら、何軒か梯子した後くるくせに珍しいこともあったもんだ、と思っていた時の事だった。
銀時が一歩入り口から横にずれた場所に、一人の女が立っていた。
「こんばんわ。」
彼の交友関係は大体把握していたつもりだったが、その誰でもない。そしてまた澄んだ綺麗な声に似合う、段違いの美人だった。
お登勢はそこで、勢いよく固まった。
「おいおい、ついに逝ったかぁ?」
笑いながら女の腰に緩く腕を回した銀時を見て何かを察した彼女は、慌てて外の暖簾を下ろしにカウンターから出たのだった。