第12章 夕顔
"万事屋銀ちゃん"の下にあるスナック"お登勢"
まだ開店前のそこには、食事をする二人と店主であるお登勢の姿があった。
炊飯器ごと食べてしまうのではないかという勢いで米を食らう大食らい娘の隣。新八は何か考え事をしているような顔をしながら、たくあんをポリポリと齧っていた。
「どうしたんだい、そんなシケた面して。またあのチャランポラン家賃使っちまったのかい?」
見かねたお登勢が声をかければ、新八は箸をおいて、大きくため息をついた。
「おい、そんな辛気臭い雰囲気だすなヨ。食欲落ちるダロ。そんなんなら銀ちゃんと寝てればかったネ。」
ご飯おかわり!と元気よく炊飯器を突き出す神楽の食欲は落ちているようには見えない。だがきっと彼女も彼女なりに心配しているのだろう。
もぅねぇわ!と叫ぶお登勢の前で、新八はやっと口を開いた。
「…最近、銀さんの様子がおかしい気がして。」
彼が言うには、銀時は最近ほぼ毎日の様に朝帰り。目の下をクマだらけにしているかと思えば、いつもの調子でへらへら。そのまま昼まで寝る。そしてなにか依頼をこなして帰ってきたかと思えば、夜またどこかへふらっ出かけていく。
「そんなん前もそうだったアル。なんにも変じゃないネ。どーせまた飲み歩いて、女遊びに決まってんダロ。」
「まぁ、そうなんだろうけどさ。なんだろ…違う気がするんだよね。」
飲み歩いて酔っ払って朝帰ってきて、何てのは、確かにあの男は日常茶飯事だ。けれど、家の玄関を開けるその瞬間の雰囲気というか、なんというか、何かを擦り減らして帰ってきている様に感じていた。
眉尻を下げて困った顔をする新八。
そんな頼りなさげな顔を見て、ぽつりとお登勢は言った。
「まぁ、関係あるか知りゃしないけどね。あの男、二週間くらい前、アタシんとこに女紹介しに来たねぇ。えらいべっぴん連れてくるもんだから、思わず貸切にしちまったさ。」
その言葉に、神楽は抱えていた空の炊飯器を破壊し、新八のメガネにはピキっとひびが入った。