第12章 夕顔
客が少ないから、とキャサリンとタマを下げていた事に自分を褒めてやりたい気持ちだった。
暖簾をさげ、そとの看板の電気をきって内に戻ると、カウンターの真ん中に並んで座る二人。女の方は初めてみるが、並んだその二人の後ろ姿はどこかしっくりくるものがあった。
伊達に長生きはしていない為、色々見えてしまう。
あの銀時が素面で連れてくるのだから、よほど本気なのだろう。毛根とは程遠く、案外義理堅い男。それにいい歳でもある。そういう相手の一人くらいはいてもおかしくない。
だがまさか、こんな美人だとは思わなかった。
カウンターに戻り、おしぼりをもう一つ用意する。
先程用意したものは、銀時が隣の彼女に手渡していた。
「ったく、年寄りを驚かせるもんじゃないよ。」
手を出す銀時にそれを渡しなが言うと、銀時は悪戯を成功させた子供の様に口角を上げて笑う。
「はじめまして、皐月と言います。いきなり来てしまって、申し訳ない。」
礼儀正しく座って頭を下げる、皐月と名乗った彼女は、見れば見るほどこのチャランポランには合わない気がしてくる。そして自分に挨拶をする彼女を見る銀時の顔に、またお登勢は驚いた。
目が彼女の事を好きだと言っていて煩かった。
適当なつまみと酒を出せば、二人は何かを話すわけでもなく静かに飲みはじめた。彼女の方は苦手なのだろう。最初の一杯目以降は水を飲んでいる。一方銀時の方はいつもの様にだらしなく飲んだくれていた。お猪口が開くと、黙って彼女の方を見ながらそれを差し出してついでもらい、飲んで、またついでもらいを繰り返している。
そのうち銀時は酔っ払って、カウンターに伸びて彼女の髪を弄りながらチビチビと飲んでいた。彼女はそんな彼を無視するわけでもなく、とは言え気にする事もなく、気に入ったのであろうお登勢の卵焼きを突いている。そしてそれをまた銀時は飽きもせず目を細めて見つめていた。