第11章 夜と罪
そんな銀時の言葉に、皐月はやっと反応した。
しかしそこから出たのは、なんとも頼りない、か細い震えた声だった。
「……勘弁、してくれ。」
彼に今更そんな事、言われなくとも分かっているのだ。
だが、そうやって考えないように蓋をして、言い訳をして、自分を騙して、逃げて、としなければ、生きては来れなかった。
あの居場所からは、離れられなかった。
もう、皐月は限界だった。
自らの手で奪ってきた命にも。
彼らからもらった居場所にいられないことも。
自分の後ろを懸命についてくるあの子も。
晋助からの愛を受け止めることも。
彼を殺してしまった罪も。
自分の好きな人とすら、一緒にいられないことも。
「僕には、無理だ。…こんなに沢山大事なものを抱えて、生きていけない。一歩でも動いたら、落としてしまいそうだ。」
彼女はそれが怖かった。
抱えたものの守り方など知らない。落ちたものの拾い方も知らない。捨て方しか知らなかった。
それがいつの間にか、捨てても、捨てても、戻ってくる。
皐月の両腕を、埋めていく。
…次第に捨てられなくなっていく。
そうして最後、彼女はもう動けなくなってしまった。
もう何も失いたくないのだ。だが、そうするためには、自分ごと捨てるしか、方法が見つからなかった。
内に秘めていたものが涙と一緒にぼろぼろと溢れ始める。
俯いて両肩を震わせる皐月を、銀時は後ろからそっと抱きしめた。
「……弱えよな。けど、それでいいんだ。」
彼女の耳に届いた声は、先程とは打って変わって優しく、あたたかいものだった。そんな声に、彼女の涙腺は完全に崩壊した。
「…持ちきれねぇもんは、無理して持たなくていい。お前のそれは、俺が一緒に抱えてやる。そうやって、互いに持てねぇもん持ち合って、背中支え合って、あいつらの残してったもんと生きてかなきゃなんねぇんだ。」
それできんのが、ひとの良いとこだ。
たくさんの人、たくさんの繋がり、この街歌舞伎町。
銀時はそこで教えてもらった。
抱える苦しみも、分け合える喜びも、支え合える愛情も。
教えてやりたい。
そんなに下向いて、一人で足引きずって、真っ暗な夜をこえていかなくてもいいんだって事を。