第11章 夜と罪
「よぉ。なーんか楽しそうなことしてるもんだから、つい邪魔しちまったぜ。」
「……ぎ、銀時。」
振り向かずとも、声と匂いだけで分かってしまう。
傘はかなり遠くまで蹴り飛ばされてしまった。
…なんでこんな時に、と思う。
皐月は銀時に、二年前高杉を殺してしまってから、合わせる顔を持っていないのだ。だからこそ船の上でも顔を見せまいと、ずっと背を向けていたのに。
もう、僕のことなんて忘れているとばかり、思っていたのに。
「……何故、」
「お前んとこの、なんつったっけか。ハルくん?に泣き付かれてな。皐月様がいねぇ、って。」
ったく、何時だと思ってるんですかねぇ。と、面倒臭そうに銀時が頭をかく音が聞こえる。
まさかハルが銀時を頼るなんて思いもしなかった。それに、もし銀時が同じ病院にいなければ、確実に間に合わなかっただろう。もし皐月が煙管に目を奪われてなければ、銀時は間に合っていなかっただろう。
「んで?てめぇはこんなとこで、何しようとしてたんだよ。」
先程までの雰囲気が形を潜め、どすのきいた声で銀時が皐月に問う。それに少しだけ気圧されそうになる彼女だったが、もう解放されたい気持ちが上回っていた。
「見れば分かるだろう。…もう僕がいたって何もないんだ。」
もう放っておいて欲しい。
そんな気持ちで投げやりにそう言い切ると、背後の空気感が完全に変わった。肌を刺す様な、怒りを感じる。
「…おめぇ、高杉の野郎がなんでてめぇといたと思ってんだ。お前がそれを簡単に手放したらしめぇだろうが。」
銀時は知っている。
野郎が皐月といたのは、自分の事を一人で待たせない様にするためだと。皐月を現実に繋ぎ止めておく為だと。
あの野郎が、皐月に惚れてたことだって、痛いほど知っている。同じ女に惚れた、男として。
「命捨てりゃあ、許されると思ったか?お前がここに残してくもんが、それを許すと思ったか?」
なんの返事もしない彼女の後ろ姿に向けて、銀時は畳み掛ける様に口を開く。
「てめぇは昔っからそうだろ。大事なもんにごちゃごちゃ理由つけて、遠ざけて逃げてるだけじゃあねぇか。自分捨てる前に、お前はやらなきゃいけねぇこと、あんだろ。」