第11章 夜と罪
月明かりの下。
人気のない道を片手に煙管を持ち、真っ黒の傘をさして歩く。
まだ腹に空いた傷は塞がっていない様だったが、肩は充分動くようになるまで回復していた。我ながら夜兎の身体はつくづく戦闘のための物だな、と思う。
そういえば、先の戦いで負傷していた銀時達は元気になったのだろうか。まぁたとえまだ寝たきりの状態にせよ、もう地球の未来は明るいのだ。なにも心配はいらない。
そんな事を考えながら、ふらふらと彷徨うように、だが何かを探しているように彼女は歩く。
ーーー皐月は死に場所を選んでいた。
だが、何処を見たって明るい場所にみえて仕方がなかった。
街灯もともっていない、こんな夜中にも関わらず、彼女にとっては何処も眩しくみえた。
やっとの思いでたどり着いた場所は、何処ともわからない路地裏。ゴミ捨て場の様だった。自分にはお似合いな場所な気がして、彼女は力尽きた様にその場に膝をつき、ぺたんと座り込む。
ふと空を見上げれば、欠けた月がこちらを見下ろしていた。
長かったようにも、短かったようにも思う。
彼らと出会ってから、今まで。
たくさんのものをもらった。
そして、結局一つのかけらすらも返せなかった。
ハルからは聞かずにいたが、どうやら晋助は死んだらしい。
言いにくかったのだろう。そんな優しいハルの雰囲気で皐月は察してしまった。
高杉を一人死なせたまま、自分がのうのうと生きていて良いはずがなかった。それに、彼には煙管を返しにこいと言われている。生きて、という条件はこなせないが仕方がない。
未ださしていた傘を閉じて振ってみれば、何の因果か、弾が一発だけ残っていた。あれだけ戦った後だ。弾なんて残っていないだろうから、首か腹を掻っ切らなければならないな、と思っていた。
誰かに、死ねと言われている気がした。
彼女はゆっくりと銃口を自身の顳顬にあてがう。
ありがとう。
そして、ごめんなさい。
頭を撃ち抜こうとした時。
何故だか、煙管に目を奪われた。
何にひかれたのか。
煙管の火皿部分に傷のような何かがみえた。それはちょうど吸う時に目に入る位置にある。
よく見てみれば、それは傷ではなく彫り物。
何かを理解した瞬間、皐月が構えていた番傘がすっ飛ばされた。