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夕顔

第11章 夜と罪





"虚は消滅したそうです。"

そうハルから報告を受けた日の夜。
皐月は、一人静かに病室を抜け出した。








ターミナルが崩壊した日。
ハルに再会してからの記憶が、皐月にはほぼ無かった。
意識を取り戻した時には、既に手当てを受けて病室に寝かされていたのだ。傍にはずっと寝ずに付いていたのであろうハルの姿。そっと頭を撫でると号泣されてしまった。

その日は、自分の膝の上で泣き疲れて寝こける彼の頭を、飽きずに永遠と撫で続けた。
引き抜いた時には、まさか本当に名前の通りの子になるなんて思いもしなかった。そんな風になるように接してきたつもりもなかった。きっと彼の根に眠っていた本来の姿なのだろうと皐月は思う。


そして次の日。
ハルはまだ安静を言い渡されている彼女に変わって、病院内や他施設をまわって現在の状況を調べてた。その報告によれば、江戸は奇跡的に助かったらしい。そしてそれは、松陽と松陽の弟子たちのおかげであるとも聞いた。



虚の消滅。
松陽と弟子たちの再会。

彼女が見届けたかったものにしては、充分すぎるものだった。





「ハル、僕の好物を覚えているか?」

なんのきっかけも無しに、報告あとの彼に皐月は聞いた。その質問に当たり前じゃないですか、とハルは即答する。

「今、無性にそれが食べたい気分なんだ。ここの病院の売店には売ってなくてな。距離はあるが、使いをたのめるかな。」

「夜中にプリンパフェだなんて、皐月様はおちゃめですね。」

地球のコンビニに売っているプリンパフェが彼女の昔からの好物であった。病院から少し遠いそこにしかないもの。
時間も遅いが一日中空いているそこには関係ない。久しぶりとなる彼女からの命に、ハルは喜んでそれを了承し、スキップでもする勢いで病室から出て行った。



「……すまないな。」


彼は良い子に育った。きっともう何処へ出しても大丈夫だ。

ハルの笑顔を見送った後。
ベッド横に綺麗に洗われ畳まれていた、自分の着慣れた服へ素早く着替える。それと一緒に置いてあった煙管も忘れない。


そうして、番傘を手にすると皐月は大胆にも窓から飛び降りて病室から姿を消したのだった。

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