第11章 夜と罪
暴走を始めたアルタナのチカラは凄まじモノだった。
生物、兵器、武器、何をとったところで抑えらるるモノではなかった。
地面がはがれ、天井が崩れ、壁が吹き飛ばされ。
前なんて見えたものではない。道なんてあるものではない。
そんな中をハルは皐月を支えながら必死に進んだ。
もしかしたら、もう生きては戻れないかも知れない。
それでも、最後の一瞬。それが彼女の隣であるならば、彼は本望だった。
皐月の元を離れてから。
ハルは彼女の命には逆らえない、と必死に烏になり切ろうとしていた。上から只管に与えられることを、無心にこなし続ける。
そんな日々の中、彼はふと彼女を思った。
自分は彼女から、何をもらったのか。
いつもついて歩いていた背中から、何を教わったのか。
確かに、人様に褒め称えられるような、自慢できるような所業は重ねていない。素直な人間でもない。どちらかといえば、好きなものを嫌いと言って遠ざけてしまうような、捻くれた人だと思う。
けれど、彼女の守りたいものへの真っ直ぐな気持ちは本物だった。
傍でずっと見てきた。踠いて、苦しんで。それでも少しでも進もうとしていた彼女を知っている。
そんな彼女の足が止まってしまいそうになったなら。
そんな事になった時は、ずっと彼女の背を見てきた自分が、後ろから支え、前へまた押してあげなければならない。
それが皐月に、全身全霊をかけて仕えようと決めたハルの魂だった。
「皐月様と離れている間は、何処だって真っ暗で何も見えなかった。けど、こんな世界の終わりにいても、貴方がいれば俺にとってそこは明るいんだ。」
だから、少しでも可能性がある限り。
ここから生きて出ることを、諦めない。
ハルは前だけをみて歩き続けた。
ハルと皐月が命からがら逃げ続けて。
いつおさまったのか。
いや、まずどうやっておさまったのか。
分かっているのは、とりあえず生きていると言うことだけ。
ターミナルは不思議な形をして崩れていた。
中に残っていた者の足場だけを残すようにして、崩壊していた。
きっと、慈悲深い神様が、最後にくれた生きるチャンスなのではないかと、ハルは天井の消えた空を見上げて思った。