第11章 夜と罪
……自分は死んだのだろうか。
だが、一向に消えてくれない全身の痛みに、皐月は閉じていた目を開いた。
そこには、驚きの光景があった。
自分の目の前で、刃先が止まっている。
時間が止まったかのようだった。
気がつけば、背後にいた敵の気配も感じない。
そっと振り向いてみれば、首の飛ばされた死体が二つ転がっていた。
いっそ美しいまでの断面。
彼女はこの斬撃を、知っている。
「てめぇら、誰に許可あってこの人に手ぇだしてやがる。」
声が聞こえた時には既に、前にいた者の首も無かった。
立っているのすら限界だった彼女が倒れてしまう直前。その声の主は慌ててそれを支えた。
「よかった。間に合った。……本当に、良かった。」
「…は、る。」
耳元に届いた声は、涙を含んでいた。
何故ここにいるのか、聞きたい事は多くあったが、お話を許してくれるような場所では無かった。
「皐月様の命に初めて反し、俺は烏に戻ることはできませんでした。」
会わない間に背丈も、体格も変わったようだ。
皐月を抱えながら、その戦場を離れるように敵を倒していくハル。途中、彼女の肩に刺さったものも躊躇いがちに抜いてくれた。
「貴方が、俺を玄からハルに変えたんだ。あの日からもう、俺の使える天は皐月様だけです。」
俺が行く道は、そこが何処であろうと貴方が行く道です。
真っ直ぐ前を向くハルは、皐月が連れ出した時の面影はない。自分の意思で、自分の生きる場所を決めた、一人の侍だった。
「僕は、随分と優しい子を持ったものだな。」
近くにいた彼にしか届かない声で皐月が呟くと、ハルは遂に耐えきれず涙を零した。