第11章 夜と罪
避難の波に逆らって、皐月はターミナルへと入っていく。
この人混みだ。誰に止められる事もなく潜入するのは容易かった。
上層部に行けば行くほど人はいなくなり、ついに何者の気配もしない所へでると、彼女はやっと一息をついた。
中央にそびえ立つアルタナの中枢を担う柱をみて、彼女は二年前の天鳥船でのことを思い出す。
あの戦での地球の被害は壮絶なるものだった。
どこもかしこも江戸は瓦礫の海。皐月が目を覚ましたのは一月後の事だったが、それでもその爪痕は深く残っていたのを今でも覚えている。
その景色をみて、一番に思い浮かんだ顔はやはり銀時だった。
生きているのかどうか。それだけが気がかりであったが、そう簡単に倒れる男ではなかったな、と高杉と話す姿で改めて思った皐月だった。
もうそれで良い、と最後に思えた。
彼はもう自分が守らんとしなくても、自分より遥かに力のある幾つものつながりによって守られていた。それはきっと、彼が自分の知らない間に守ってきたものであり、彼の強さたるものなのだろう。
彼女は、あと高杉の行く道を見届けられれば死んで良い、と本気で思った。
そこからどのくらい時間が経ったか。
突如、ターミナルに衝撃が走った。最上部に何かが墜落した様な大きな揺れ。だが、彼女はいまさら驚く事もなく、その場から動かなかった。
ただ、じっと何かを待つ様にそこを動かなかった。