第11章 夜と罪
高杉に、もうこなくていいと言われてしまった皐月は船を降りた後、行くあてもなく一番目についたターミナルへ真っ直ぐ歩いていた。
この二年間。
ただ高杉の隣で生きた。
鬼兵隊の総督でない。松下村塾吉田松陽の弟子としての高杉晋助と一緒に。
鬼兵隊の総督は自分が殺してしまったのだから、彼の隊の者にはかなり恨まれるだろうなと彼女は思う。とくに、あの金髪の娘には何発鉛玉を撃ち込まれるかわからない。
どこか取り付き物が落ちた様な彼の表情を見るたび、彼女は胸が締め付けられた。この顔を見ていいのは、自分ではないはずなのだから。いっそ恨まれて殺されてしまいたい。何度も願ったが、高杉を亡霊として生かしてしまった自分に、彼が生きている間に現実から離れる事が許される訳もなかった。そして、もう銀時の迎えを待つ資格も失ってしまった。
この後、高杉らがなにを企んでいるのか。それは教えてもらえていなかった。そうとなればもう、彼女は血にしたがって戦場に赴く道しか残されていない。そこには必ず、高杉が現れるはずだ。
そこで彼に殺されるか、彼を庇って死ぬか。
彼女が高杉から奪ってしまったものを返すには、もうその手段しか思い浮かばない。
目についたからといって、なぜこんなターミナルなんて場所にきてしまったのだろうか、と皐月は自分自身に疑問を抱いたが、すぐにそれは解決された。
「……人が避難している。」
ターミナルでなにか非常事態が起きたらしく、人々が誘導されて避難していた。よく聞いてみればターミナル周囲五キロ圏内には避難勧告が出ているらしい。
こんな事、何かがこの後ここで起こると言っているようなものだ。
意識せずとも、戦場へ向かうこの血はもう呪いの類だな、と彼女は思った。