第11章 夜と罪
皐月が高杉と行動を共にしていた理由は一つ。
彼に恨まれ、殺されるまで待っていただけだった。
そんな思いを知ってか知らずか、高杉は彼女を連れて歩いた。戦闘要員としては申し分のないそれを利用したかったのもあるが、銀時への道を自分が潰してしまいたくなかったのが一番の訳だった。
皐月まで、自分と同じく過去に縋って生きていく必要はない。彼女は、今を見つめ直して高杉を救う事を選んだ様だが、それは結果的に高杉が彼女を同じ過去に縛ってしまう事になる。そうなれば、彼女はもう銀時の元へは戻ろうとしないだろう。
自分が死んだら、必ず一緒に死のうとするだろう。
そんな事はさせない為に。彼女が銀時の迎えが来るのを待ちきれなくなってしまわない為に。高杉は彼女と共にいた。
「江戸についたら、もう一緒にこなくていい。てめぇの好きにしな。」
銀時が船内へ入ったのを確認した高杉は、こちらに振り向こうともしない皐月の傘に向かって言葉をかける。だが、そこからなにかが返ってくる事はなかった。
その後。
夜が明け、数時間たって船は江戸へ到着した。
船を降りる最後まで、銀時は彼女の顔どころか背中を見ることは叶わず、真っ黒の番傘だけが見送りをした。そして彼女は高杉に言われた通り、彼についていくこともせず、ただ静かに海を見ていた。
「お、おい、ねぇちゃん。いかねぇのか?」
元々の船の船員は、一緒に降りようとしない皐月に恐る恐る声をかけた。
それはそうだろう。かつて英雄といわれ、国で大暴れしていた男が連れていた女だ。どんな事を返されるかと身構えたその者だったが、返ってきたものはなんて事のないただの礼の一言だった。