第10章 人生も人間もバグだらけ
突然、自分の足にブレーキがかかった。
「おい、どうしたんだよ。早く行こうぜ。」
お前が好きな銀時が待ってるんだ。
こちらに振り向いた高杉の目は何処か虚だった。
そんな彼を見下ろして、皐月は口を開く。
「…僕はもう……あの時には、帰らない。」
だって、約束したんだ。
銀時を待ってる、と。
自分を待つ銀時の元へ行くのではない。彼は必ず自分を迎えに来ると行ったんだ。そんな彼が、竹刀を振りながら自分を待つだろうか。
もう違う訳にはいかないのだ。
もう昔の彼を追うのは、ここでやめなければならない。
僕は、もう今と向き合わなければならない。
「……また、俺たちの事置いていくのかよ。」
そう言って見上げてくる高杉の瞳には光が戻っている。
そんな彼を、皐月は屈んで抱きしめた。
「ありがとう、晋助。君のおかげで、僕は気づかされたよ。」
「…俺の手じゃ、結局おめぇは捕まえられねぇなぁ。」
そう高杉が呟いた瞬間。
頭を割られたような痛みに襲われた。
頭だけでない、徐々に全身を刀で突き刺されるような感覚も広がり始める。耐えようのないそれに思わず皐月が目を閉じると、どこからともなく送り出される声が聞こえた。
「っ!!」
はっ、と目を開ける。
全身が痛い。骨がどこかしら折れているのだろう。呼吸をするだけで死にそうだった。傍に落ちている骨だけの傘を頼りに、なんとか立ち上がってみたはいいが、一歩進むのにも気力がいる上、利き腕が使えない事がこんなに不便である事は知らなかった。
薄暗い周りを見渡してみれば、破壊されきった制御装置につながる通路の途中に倒れていた様だ。どうしてここにいるかはわからない。落ちている途中に、爆発に吹き飛ばされでもしたのだろうか。
だが、そんなことはどうでも良い。
自分はまだ、今生きている。
「……晋助を、探さないとだな。」
彼は地球を消させない為に此処へ来たのもあるが、もう一つの目的は他でもない。天導衆を肉片すら残さず完全に消す事。そうなれば、高杉が向かう所は一つ。
正直身体は戦闘できるほどの体力はなかったが、引きずって歩く事ぐらいは出来そうだった。何よりまだ鼻が効いた。
先程まで一緒にいた少年の匂いにひかれるように、皐月は歩き始めた。