• テキストサイズ

夕顔

第2章 思い出さなくても良い思い出もある




「……こうなったら仕方がない。僕は阿伏兎と話をしてくる。君はこのまま銀時たちを。」

「了解です。」

やっと中へ入りそうな下の者たちを尻目に、皐月は取り敢えず先ほどいた部屋の辺りへ戻ることにした。


…だが、いると思っていた部屋にはもう既に二人と死体一つの影はなく、全開になった襖の外から三味線と賑やかな街の音が聞こえてくるだけだった。

そうなると困った事になる。いかんせんどっちへ行こうとも、どこの襖を開けようとも景色の変わらないこのだだっ広い屋敷から、当てもなく兎一匹見つけるのは至難の技だ。しかもこの階からはなんの気配もしない。神威は面倒がってもう船かも知れないが、阿伏兎はああ見えてしっかり仕事をするやつだ。

皐月は気合を入れ直し、階を変えようと一歩踏み出そうとした時、ハルからの連絡を知らせる音がした。

「皐月様、大変です。」

小声ではあるものの、慌てた様子のハルに、皐月の眉間にシワがよる。

「第七師団阿伏兎が三人と出会い頭に攻撃を仕掛けました。どうやら潜入者を潰して旦那へ借りを返すつもりらしいです。そして、銀髪が子供二人を残して、」

旦那の方へ向かいました、と早口で話す彼は移動しているのか、足跡はしないものの風を切る音が聞こえてきた。
思いもしないイベントに、皐月の眉間の溝がさらに深まる。

「……子供の方はいい。阿伏兎には用があるから僕がいく。場所は?」

「最上階から一つ下。一番外側奥から五番目の部屋です。」

上だったか、と見ても意味のない天井を見上げた。

「銀髪は今追っていますが…どうしますか?」

昔、白夜叉と恐れられ、天人相手に活躍していた彼の強さを皐月は言われずとも知っているが、旦那を相手にできるかと言われたらそれはノーだ。人間が勝てる相手ではない。


「旦那に喧嘩売るつもりです。皐月様、あの銀髪……死にますよ。」


/ 141ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp