第8章 scene2:ハートのバスタブ
脱衣所の床に敷かれたハート型のバスマットの上に、僕ご自慢のメイクボックスを広げた。
NINOを鏡の前に立たせて、NINOの頬に手を触れる。
「綺麗な肌…」
すっごくスベスベしてて、なのにモッチリしてて…
触れただけで指に吸い付いてくる。
「そう? でも何のケアもしてないのよ?」
「そうなの?」
僕なんて、週に二回は必ずパックだってしてるし、たま〜にサボっちゃう時もあるけど、クリームだって化粧水だって塗ってる、それなりにケアはしてるつもり。
でもそんな僕の肌よりも、NINOの肌の方が、断然きめ細やかで、綺麗で…
僕はリキットタイプのファンデーションを少量、手の甲に乗せると、専用のスポンジを使って、濡れて剥がれた所を重点的に、NINOの肌に塗って行き、それが終わると今度はブラウンの瞳が引き立つように、シャドーとアイラインを引き…
服と同じ系統のチークで頬を飾って、真っ赤な口紅を薄い唇に引いた。
「これでよし、と…。目、開けて?」
それまでずっと閉じていた瞼が、長い睫毛と一緒にゆっくりと持ち上がり、鏡を覗き込んだ瞬間、驚いたように大きく見開かれる。
「まあ…! 凄いじゃない、HIMEちゃん。素敵だわ」
「え、ほんと…に…? 気に入ってくれ…た…?」
「ええ、とっても♪」
良かったぁ♪
僕、他のことはあんまりだけど、メイクだけは自信あったんだ。
でも人にするのは初めてだからちょっとドキドキしてたんだけど…
喜んで貰えたみたいで嬉しい♪
「ねぇ、せっかくだからもう一枚撮って貰わない?」
「え、でも…」
さっき見た時には、もう機材の片付けも殆ど終わってたし…
「大丈夫よ、私に任せて?」
そう言ってNINOが僕の手を引き、僕達は一緒にバスルームを出た。