第32章 scene6:僕はHIME…
松本さんが予約してくれたレストランでご飯を食べ、僕達が帰路に着いたのは、日付けが変わる寸前の頃だった。
慣れないワインを飲んだせいか、ちょっぴり酔っ払った僕は、翔くんに腕を引かれているのに、真っ直ぐ歩けない状態で…
「う〜、飲み過ぎたかも…」
僕が言うと、翔くんは足を止めて僕のお顔を覗き込んでだ。
すっごく心配そうなお顔で…
「大丈夫? どっかで少し酔い冷ましてから帰る?」
「ううん、お家帰る…」
だって今日は“初夜”なんだもん…
何がなんでもお家に帰らなきゃ!
でも…
「う〜、視界がグルグルする…」
マンションまでは、もう目と鼻の先なんだけど、無事に辿り着ける自信が無い。
う〜、これも皆松本さんのせいだ。
だって楽し過ぎたんだもん。
だからさ、普段は飲まないワインなんて飲んじゃってさ、ご飯だってお腹いっぱい食べちゃってさ…
本当に楽しかったんだ。
「分かった、じゃあおんぶしようか?」
え…?
「い、いいよ、僕多分今日で何キロか太ったし…」
それでなくても、母ちゃんのご飯のせいで3キロも増えたのに…
「いいから、ほら、おぶさって?」
翔くんが僕に背中を向けてしゃがむ。
「じゃあ…」
僕はそっと翔くんの首に両腕を回すと、肩口に顔を埋めた。
「しっかり捕まっててね?」
「うん」
僕が頷くと、翔くんは「よいしょ」と言いながら立ち上がり、肩越しに僕を振り返って、ニッコリと笑った。
「はは、本当だ、ちょっと重たくなった気がする(笑)」
え、嘘…
「本当…に? ね、僕降りようか?」
翔くんが腰を痛めたりしたら、初夜どころじゃ無くなっちゃう。
「冗談だよ、全然平気だよ」
もぉ、意地悪。
でも…、僕はそんな翔くんが…
「好き♡」
「え…、何?」
「ううん、何でもない。楽しみだね、“初夜”」
「え、う、うん…」
熱い夜にしようね?
翔くんの背中よりも、うーんと熱い夜に…、ね?
『僕はHIME…』ー完ー