第32章 scene6:僕はHIME…
斗子さんと二人、お顔を見合わせて首を傾げたていると、ノックもなくドアが開かれて…
「あ、あの…、勝手に入られては困ります…」
スタッフさんの制止する声も無視して、ガニ股大股でズカズカと長瀬さんがお部屋に入って来た。
そして僕を見るなり、
「流石斗子だ、悪くない」
それだけ言って“フン”と鼻を鳴らした。
ってゆーか、僕には一言もないわけ?
別にさ、長瀬さんに“可愛い”とか“綺麗だ”とか言って貰っても、むず痒くなるだけなんだけどさ、一言くらいあっても良くない?
って、期待するだけ無駄か(笑)
「準備は済んだのか?」
「ええ、後は靴を履いたら完璧ね」
「そうか、じゃあ車で待ってるから、さっさとしろよ」
え、車…って、え、どゆ…こと?
僕はてっきり翔くんがここに来るんだとばかり思ってたんだけど…、違ったの?
「あ、斗子お前もな」
「え、私も…?」
「とにかく急げよ」
戸惑う僕達にそれだけを言い残して、長瀬さんはフィッティングルームを出て行ってしまう。
斗子さんはガニ股大股で、肩で風を切るように歩く長瀬さんの背中を見送りながら、やれやれとばかりに肩を竦めた。
「本当に一方的で、困っちゃうわね(笑)」
「ふふ、でも好きなんでしょ?」
「まあ…ね、私には智也しかいないから…」
そう言って照れたように笑った斗子さんは、凄く綺麗な横顔で…
僕は斗子さんのことがちょっぴり羨ましくなってしまう。
だってさ、それだけ愛されてるってことだもんね?
それから長瀬さんだって、あんな鬼軍曹みたいな人だけど、ちゃんと斗子さんのこと愛してるし…
お互い愛し合ってるからこそ、あんな綺麗な笑顔が出来るんだよね?
僕もいつか翔くんの隣りで、斗子さんみたく綺麗に笑えるようになるのかな?
ってゆーか、なれるよね、翔くんとならきっと…