第32章 scene6:僕はHIME…
「ああ、もお…、困った子ね」
斗子さんは、突然泣き出した僕を呆れるでもなく、ポケットから綺麗なレースのハンカチ取り出すと、メイクが崩れないように、僕の涙を拭ってくれた。
「さ、笑って頂戴? このドレスはね、笑顔の素敵な人にしか似合わないのよ? だから笑って?」
「うん…」
僕は鼻をズッと啜ると、斗子さんに向かって精一杯の笑顔を向けた。
きっと凄く不細工な笑顔だったと思う。
だって僕の泣き顔って、まるで赤ちゃんみたいにぐちゃぐちゃなんだもん。
でも斗子さんは吹き出すこともなく、僕の背中を軽く押すと、
「さ、早く着てあげて? でないと、ドレスが寂しそうよ?」
「ドレスが…寂しそう…?」
「そうよ? だって、個のドレスはHIMEちゃんに着て貰うために、ここでずっと待ってたんだもの。これ以上待たせたら可哀想よ?」
ドレスが可哀想…?
そっか、そうだよね…
「ね、僕、早く着たい」
僕はハンガーにかかったままのドレスを手に指を触れると、ダンガリーシャツのボタンに手をかけた。
でも…
「ちょ、ちょっと待って?」
斗子さんに止められて、僕は首を傾げた。
すると斗子さんは、
「ごめんね、ちょっと二人にしてくれる?」
お部屋にいた数人のスタッフさんに、部屋を出て行くように指示をした。
そっか…、この部屋に来るのは、普通は女の子だから…
でも僕は男の子だから、だから…
まあ、僕的にはあんまり気にしたりはしないけど、スタッフさん達はそうじゃないもんね?
「さ、もう脱いでも良いわよ?」
スタッフさん達がお部屋を出て、二人きりになったのを確認してから、斗子さんが僕に言う。
「うん」
僕は小さく頷いてから、再びダンガリーシャツのボタンに手をかけた。
一つ一つ、ゆっくりボタンを外して行く…んだけど、どうしてだろう、指が震える。