第32章 scene6:僕はHIME…
約束の時間よりもちょっぴり早いかな…、なんて思いながら、リュックを手に下げ、マンションのエントランスまで降りる。
本当はね、背負った方が断然楽ちんなんだけど、それだと肩とかにベルトの跡が着いちゃったりするからさ、手が塞がるのは厄介だけど、これもドレスを可愛く着こなすためには必要かな…なんて、もっともらしいこと言ってるけど、僕的こだわりなんだけどね?
管理人さんにご挨拶をして、エントランスを出た僕は、表通りまで出て迎えの車を待った。
すると、丁度視線を向けた先から、見覚えのあるワンボックスカーがこちらに向かって走って来て、僕の前でピタリと止まった。
自動でドアが開き、僕は迷うことなくワンボックスカーに乗り込むと、運転席に座る城島さんと、相変わらず助手席にふんぞり返って座る長瀬さんのお顔を交互に見た。
「おはようございます」
「おう…」
ふふ、なんだろうね…、あれからそう日も経ってないのに、もう何ヶ月も会ってないみたいに懐かしく感じちゃう。
「あ、コンビニ寄って貰って良いですか?」
僕が言うと、城島さんは親指をピコンと立ててから、アクセルを踏み込んだ。
「ったく…、朝飯くらい食って来いっていつも言ってるだろうが…」
「だってそんな時間ないんだもん…」
「だったら早く起きれば良いだけの話だろうが…」
「そんな時間あったら寝てたいもん…」
睡眠不足は美容の敵だってこと、知らないの?
「ったく…、お前は相変わらずなだな…」
それを言うなら、長瀬さんだって相変わらずだけどね(笑)
…って、こんなやり取りすら懐かしく感じるなんて、僕も年なのかしらね?
「ところで、何で移動車なの?」
斗子さんのサロンに行くだけだから、僕はてっきり長瀬さんのプライベート用の車で来るんだとばかり思っていたから、この車が目の前に止まった時は、ちょっとびっくりだったんだけど…