第29章 日常14:はじめの一歩
父ちゃんと母ちゃん、それから翔くんと僕…
四人で一つのテーブルを囲むことになるなんて、きっと誰も想像してなかったと思う。
現に僕なんて、大好きな母ちゃん自慢のカレーなのに、全然喉を通って行かないんだもん。
なのに翔くんと来たら、お泊まり確定になったのを良いことに、しっかり晩酌までしちゃってさ…
はあ…、僕がこんなにも緊張してるってのに、人の気も知らないで、呑気なもんだよね?
なーんてさ、思ってたのはその時まで。
晩ご飯が終わり、僕は母ちゃんのお手伝い、翔くんは父ちゃんと日本酒について熱弁を交わしている時だった。
「智くん、それから智くんのお母さんも、ちょっと良いですか?」
翔くんが僕と母ちゃんをリビングに呼んだ。
なんだろう、急に…
僕と母ちゃんは一瞬お顔を見合わせたけど、直ぐに洗い物の手を止め、リビングのソファーに並んで腰を下ろした。
でも母ちゃんは直ぐに腰を上げ、またキッチンに戻って行くと、暫くしてから人数分のコーヒーを入れたカップを手に戻って来た。
ってゆーか、父ちゃんも翔くんもお酒飲んでるのに、コーヒーとか…、変じゃない?
それにさ、僕熱いの苦手なんだけど…
母ちゃんなのに、そんなことも知らないの?
…と言いつつ、カップを手に、口を着けようとしたところで、翔くんの手がそれを止めた。
「ちゃんとフーフーしないと、火傷するでしょ?」
そして僕の手からカップを奪って行くと、熱々のコーヒーに何度も息を吹きかけた。
「はい、これで大丈夫。飲んでご覧?」
もぉ…、父ちゃんも母ちゃんもいるのに、子供扱いは嬉しいけど、ちょっぴり恥ずかしい…よ?
「う、うん、ありがと…」
受け取ったコーヒーを一口啜ると、丁度僕が飲める温度になっていて、でもほんのりお酒の匂いもしてて、僕は思わず笑ってしまった。
「で、お話って何?」
カップをテーブルに置き、僕が聞くと、翔くんが急に真剣なお顔をして、床に正座をして、それから…三指を着いた。
え、ねぇ、何が始まるの?