第28章 日常13:夢なら醒めないで…
全身は勿論、大事なトコもピカピカにしてシャワーから上がると、キッチンの方からカレーの良い匂いが漂って来てて…
キュルルン♡と僕のお腹の虫が鳴った。
さっきお菓子一袋食べたってのにね?
でもごめんね?
僕にはまだやらなきゃなことがあるんだ。
僕はタオルを首に引っかけキッチンに入ると、母ちゃんの横でお鍋と睨めっこする翔くんの肩を叩いた。
「ねぇ、携帯貸して欲しいんだけど、ダメかな?」
「携帯? 俺の? いいけど…、どうして?」
「んとね、和に電話したいんだけど、僕、番号知らなくて…」
厳密に言えば、“知らない”わけじゃなくて、“知ってるけど知らない”なんだけどね?
「分かった。使って?」
多分母ちゃんが無理矢理着けさせたんだろうけど、エプロンの裾を捲ってジーンズのポケットからスマホを取り出し、僕に差し出した。
「ごめんね、ちょっと借りるね?」
僕は翔くんのスマホを手に二階へ上がると、ベッドの上に胡座をかいて座り、スマホの画面をタップした…んだけど…
「あ…れ…? あ、これって…」
画面には指紋認証を促すメッセージぎ表示されていて…
これじゃ僕は勿論のこと、翔くん以外には誰も開けないじゃんか…
僕はガックリと肩を落とすと、スマホを手に再びキッチンへと降りた。
せっかくシャワーを浴びてさっぱりしたのに、額にはまたじんわりと汗が滲んで来る。
「ねぇ、翔くん指貸して?」
カレー作りの任を解かれたのか、ソファーに座ってジュースを飲む翔くんの手を握った。
ってゆーか、翔くんだけ狡くない?
「僕のジュースは?」
「ないわよ。それが最後の一本だったし…」
「えー、そんなぁ…。僕も飲みたかった」
僕がプーッと頬を膨らますと、翔くんがクスリと笑って飲みかけのペットボトルを僕に差し出した。
「ふふ、ありがと♡ …ってゆーか、ねぇ、指紋認証って出るんだけど…」
受け取ったペットボトルを傾けながら、翔くんにスマホの画面を向けると、翔くんは思い出したように“ごめん”って言って、スマホの画面に人差し指を押し当てた。